究極の掛軸「生掛け」
窓の外の景色を一幅の絵にしてしまう、そんな大胆な発想で客をもてなす茶室が日本にありました。
京都市北区にある鹿苑寺。臨済宗相国寺派の寺で、その舎利殿は通称、金閣と言います。この金閣があまりにも有名になったので、寺そのものが金閣寺と呼ばれるに至ったのです。私は、この金閣寺で開かれたお茶会に招待されるという幸運に巡り合わせました。母屋に招き入れられ、茶室に案内されました。目の前に床の間があります。ところが、そこにかけてある掛軸の木が、どうしたものか、ちょっと動いたような気がしたのです。目がくらんで動いたのかなと思ったのですが、よく見ると外の景色だったのです。お茶会は夕方から始まるので、最初は明るくはっきりと見えていた景色も、次第に色を失い、墨絵のように見えてきます。すっかり暗くなるころには、金閣だけが墨絵の中に浮かんで見えます。刻々と掛軸の絵が変わっていくということを、床の間に穴を開けることで演出しているのです。
普通のお客様のときは、そこに本当の掛軸を飾っています。しかし、大事なお客様を迎えるときだけ掛軸をはずして、秘蔵の「生掛け」をお見せするというわけなのです。生掛けは外の風景を額縁に入れて、刻々とその色を変える絵にしてしまうという天才的な発想です。日本人の感性の素晴らしさに驚くほかありません。