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「室礼」という伝統

「室礼」という言葉があります。「しつらい」と読みます。室礼とは設けととのえること、飾りつけること、晴れの日には、その日に応じた調度品を調える、そんな意味合いの言葉です。

元来、日本家屋の部屋には決まった目的や用途が決められていませんでした。あるときは客を迎えもてなす客間になり、あるときは家族が集まる団欒の間となり、あるときは行事のための部屋になるという具合です。そのために目的、用途に添って床の間の掛け軸や生け花といった装飾品や屏風、座布団といった生活の備品を変化させてきたのです。もともと部屋に備え付けられているものや、常時設置されているものはほとんどなく、それらのモノで部屋に性格を与えるという手法でした。これが室礼です。外国人が初めて見る日本の住まいの簡潔さに驚かされたという話はよく耳にします。家具とか調度品が備え付けられていないのです。

四季をもつわれわれ日本人は、生活の中に季節感を取り込み、四季折々の恵みを生かし、季節ごとの行事や習慣、生活にアクセントをつけ、気持ちを切り替えながら暮らしを営んできました。たとえば、端午の節句に柏餅を食べるという習慣があります。なぜ柏の葉なのか。柏の木の葉は新芽が生長するまで決して散らず、新芽を守る性質を持っています。その柏の葉にあやかり、先人は端午の節句に柏餅を食べる風習を生んだのです。七夕や月見の行事も、季節の収穫を神に供え感謝したことに端を発しています。冬になれば火鉢を出し、夏になれば簾やよしずを取り付け、祭りには祭礼用の提灯を吊るし、正月には門松を飾るというように、季節や行事に合わせたバラエティに富んだ家具や調度品を用いました。

室礼は土地柄やその家々の家風と相まって、母親から娘へと脈々と受け継がれてきました。しかし、戦後、核家族化、住まいの西欧化、女性の社会進出が著しくなり、この美しい文化はまたたくまに影を潜めてしまったのです。モノに囲まれ一見豊かに見える今の生活ですが、どうでしょう。心の豊かさという点では疑問符をつけざるを得ないのですが――。

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