10分の1ショックに学ぶ
米国の連邦住宅局(FHA)による「建物評価」の具体的な採点事例からも、基準の考え方が分かってきます。
「構造の安全度」については骨組み材料の強度とその組立方法の問題点が指摘され、「デザイン」は特別なスタイルでなく、長い将来にわたって一般市場に受け入れられるかどうかが重視されました。「自然光と換気」では、建物の向き・配置が通風に最適であること、開口面積が適切であることが求められています。
また、「被保険建物額の評価とは融資売買の危険度を測るものであるため、デザインは純粋なデザインの評価というよりも、常に市場価値の観点から、あるいは長い間にわたって魅力的であり続けるかどうかといった観点から評価される」とのコメントもあります。ここからも、資産価値、市場価値を重視していることが十分に分かります。
湿気対策の面から基礎が高いことが重視され、施工精度が高まり、雨仕舞いも良くなるので正方形の標準的な建物の方が高く評価されましたし、屋根勾配も雨はけを良くするという点から急傾斜が良いとされました。間取りも標準的なものが重視されましたが、これも売却するときに買い手がすぐに見つかるからです。妙に個性を強調してデザインに凝ったりすると、好き嫌いが出すぎて売れにくい。シンプル・イズ・ベストが大事ということにほかならないのです。
これまで、3回にわたって米国大恐慌時のFHAによる住宅融資の基準を紹介してきましたが、基本はいずれも耐用年数を長く保つための条件であり、住宅は長持ちしなければいけない、という思想で貫かれているということです。
新設住宅着工数がピーク時の10分の1に落ち込み、経済復興のためにも住宅需要の喚起をという大恐慌の後なのに、これだけの厳しく、思い切った建物への融資基準を打ち出したことに改めて感心するとともに、良い資産を後世につなぐという、明確な思想に感服するほかないのです。
大恐慌というと、この時期を背景にした日本でも大人気のミュージカル「アニー」がすぐに思い浮かびますが、そこを貫くのも孤児院にいながらも未来に向けて夢を失わない明るく賢いアニーや登場人物の温かく思いやりに溢れる姿です。いろいろ言われる米国ですが、先を見越した住宅づくりを含めて米国の良さの一面がそこにあるように思います。そういえば、クリントン前大統領は「国民の財産を守る」と言って大統領選を勝ち、ヒラリー夫人とともに購入した家は80年前のこの大恐慌後に建てられたものです。今も当時の融資基準で建てられた住宅が良質なストックとして評価されていることの何よりの証拠です。
日本も80年遅れはしましたが、100年住宅を押し出し、同じ夢を描きたいものです。